大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(う)2309号 判決

被告人 藤本喜一

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意について。

よつて按ずるにおよそ商取引においては信義誠実を旨とすべきことは勿論であるから若し真実を告知すれば相手方は交換を肯んじないような場合に故意に真実を告知せず、却つて真実に反した事実を告知し相手方を錯誤に陥らせ交換を承諾させ交換の物件を交付させた場合には詐欺罪の成立することは固よりであつて、これをもつて商取引上の単なる掛引にとどまるものとして不問に付さるべきものではない。また詐欺罪の成立には必ずしも財物の交付によつて被害者の全体としての財産的価値が減少することは必要ではないから、たとい、被告人が交付を受けた物に相当する価額のある物を交付した場合にも本罪は成立すると解すべきである。原判決の挙示する標目の各証拠を綜合すれば被告人等は原判示畸型牛を小山武治に対し恰も正常な朝鮮若牝牛でなんら瑕疵なきものであるかの如く装い同人に対し原判示の如き詐言を弄し因つて同人をしてかねて約束しておいた良い若牛だと誤信させ交換名義の下にこれと同人の所有に係る原判示朝鮮牛と引き換えて交付させてこれを騙取したものであること明らかであり、若し被害者小山において本件朝鮮牛が原判示の如き型畸牛であることを知つていたならば被告人等の交換の申出に応じなかつたであろうことは同人の原審公判廷における供述に徴し明らかであるから仮りに本件畸型牛に若干の経済的価値があるとしても被告人の原判示の所為が詐欺罪に該当することはいうまでもなく、被告人の所為をもつて欺罔行為にあたらないとか正当な業務行為であるなどとは到底認められず且つ原判決には所論の如き理由不備の違法も存しない。それゆえ各論旨はいずれも理由がない。

(中村光 脇田 鈴木)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!